「充くん、十夜が来るまで話したい事があるの」
「……はい」
「凛音ちゃんにも」
「え?あたしにも?」
「うん。まだ話してない事があるから」
「……分かりました」
遥香さんに「座ろう」と促されて、その場に腰を下ろす。
すると遥香さんは、一息もつかない間に口を開いた。
「十夜との事なんだけど……」
その言葉から始まり、続いていくのは、あたしが鳳皇に帰ってきた日に聞いた十夜の家族の話と、二人の過去。
初めは強張った表情で聞いていた充くんも、話が進むにつれて次第に頭が垂れていく。
その反応はあの日のあたしと全く同じだった。
哀しくて寂しい十夜の過去と、それを支え続けた遥香さんの気持ち。それが痛いほど伝わってくる。
「……ごめんね、充くん。私は充くんが思ってるほど良い人間じゃないの。一番近くに居たのに何も言わなかった。……ううん。言えなかった」
──近い存在だったからこそ知られたくなかったの。
そう言った遥香さんは、今にも泣きそうな顔で微笑んだ。
無理してるのが分かるその笑顔に、充くんがこぶしを強く握り締める。
今、充くんの中では様々な感情が渦巻いているんだと思う。
あたしもこの話を聞いた時混乱したから。
理解するのに時間がかかった。
それほど十夜の家庭事情は複雑だったんだ。


