「此処に居たら危険なんです」
「分かって──」
「分かってません!」
「……っ」
「……遥香さんだけは怪我して欲しくないんです」
戸惑いに揺れた遥香さんの瞳から目を逸らして、そう紡ぐ。
お願いだから分かって。
遥香さんには怪我して欲しくないの。
「遥香さん、行きましょう」
一時の沈黙を経てそう言ったのは充くんで、遥香さんの腕を無理矢理引き、歩みを進めようとしている。
けど、遥香さんは数歩進んだ所で充くんを引き止めた。
「……遥香、さん?」
止めたにも関わらず、充くんを無視して携帯を取り出した遥香さん。
慣れた手付きで操作し始めた遥香さんを見て気付いた。
誰に電話をしようとしているのかを。
「──もしもし、十夜?」
やっぱり……。
思った通り、電話の相手は十夜だった。
馬鹿だ、あたし。
なんで十夜に電話するのを忘れてたのだろう。
自分達で答えを出すよりも先に今の状況を伝えなきゃいけなかったのに。
「十夜?連絡遅くなってごめんね。……うん、凛音ちゃんもいる。場所は………うん、海の近く」
「………」
あの電話の向こうに十夜が居る。
そう思うだけでこんなにも胸が締め付けられなんて……。
十夜……。
胸元をぎゅっと強く握り締めながら、十夜と会話する遥香さんを見つめる。
「十夜、今ね、充くんが助けに来てくれたの。智広くんが居場所教えてくれたって。……うん、それは大丈夫だと思う。Dに内緒で教えてくれたらしいから。
それで、逃げようってことになったんだけど、凛音ちゃんが私の携帯持って此処に居るって。………え?うん、分かった。ちょっと待って。──凛音ちゃん」
「……え?」
「十夜が凛音ちゃんと話したいって」
「……っ」


