俺が奴等に捕まったのはほんの数分前の事だった。


俺が隠れていたビルは奴等のアジトであるビルの斜め前にあり、幸いな事に入り口が奴等のビルの正面ではなく側面にあった。


だから油断してたんだ。


ビルの前で屯していた奴等ばかりを警戒して、俺は側面側の道を振り向きもしなかった。


こんな自転車しか通らないような細い道、誰も通らないと思っていたから。


凛音が電話をしに行ったビルはその細道の向こう側。


もう少し遅ければ鉢合わせしていたかもしれない。


まさに間一髪。危なかった。






“D”の下っ端に見つかった俺は手を思いっきり引かれ、道路上へと引っ張り出された。


車が対向出来るか出来ないかというそんな微妙な道幅しかない道。


当然スパイ男達に気付かれ、その姿を晒した。


『……凛音さん?』


突然姿を現した俺を見て最大限に目を見開き、顔を歪めるスパイ男。


そして。


『お前何で此処にいんだよ!』


俺を指差し、何故かキレている赤毛の男。


『……何でアンタが此処に?』

『………』


スパイ男は焦る様子もなく、鋭い眼光で俺を探っている。


……コイツ等、俺の事を“凛音”だと勘違いしてるのか?


俺は男の視線よりもそっちの方が気になった。


もしかしてコイツ等は“俺”の存在を知らないのかもしれない。



『オイ!そいつ此方へ連れて来い!』


なら話は早い。

知らないのならこのまま凛音のフリを続けた方が賢明だ。


今の状況を一早く理解した俺は最良の決断を下し、引かれるままに歩き出した。