「早く行け!奴等は俺と凛音で引き止めておく!」
切羽詰まった表情でそう叫んだ中田を見て流石に危機を感じたのか、遥香さんは小さく頷いた後その場から駆け出した。
けど。
「……っ、遥香さん待って!!」
大通りから曲がってきた数人の男達を見てすぐに呼び止めた。
けど、すでに遅く。
「や……っ!」
遥香さんの前に立ち塞がった男達が遥香さんに手を伸ばし、拘束する。
『やめろっ!!』
咄嗟に出たリンの声。
「あ?」
男達がその声に反応したのとほぼ同時にあたしは“リン”へと切り替わった。
『その手を離せ』
スッと目を細め、男達を睨み付けながら歩みを進める。
男達はあたしの変わり様に驚いているのか、遥香さんを拘束したまま固まっていた。
その間抜け面に思わず笑みが零れ落ちる。
『──あぁ、アンタ等、“オレ”の事知らないんだ』
そりゃそうだよね。
あたしが“リン”になったのは“あの時”だけだから。
作業着姿で中田を追い詰めた、あの時だけ。
だから、コイツ等が知らないのも無理はない。
「凛音、あんま“ソイツ”になるな」
隣に並んだ中田が男達を見据えながら小さく呟く。
「……だね」
中田の言う通り、この姿で“リン”になって、後々問題が起きると困る。
だから、極力リンにはならない方がいい。
けど。
「そうも言ってられない時あるよね」
危機的状況になるとどうしても出てくるんだ。
あたしの中の“男(リン)”が。


