『……っ、追い掛けなきゃ』
“衝動”だった。
貴兄に心配かけるとか危険だとか。
そんなものは頭の中から一切消え失せていて。
奴等を捕まえなきゃいけない。
それだけしか頭になかった。
『……リン?オイ、リン!』
『追い掛けるよ、直弥さん』
『は?ちょ、リン!?リン……!!』
携帯から聞こえる直弥さんの叫声をシャットアウトし、その場から走り出す。
幸いにも男達がバイクを駐車していたのは車道から少し外れた所だったらしく、裏通りを抜けるとすぐに人通りの多い道に出た。
車一台分ぐらいしかない道路。
その道路はどうやら一方通行らしく、何台もの車が赤信号で停まっている。
その中に二台のタクシーを発見。
片手を上げながら一台のタクシーに近付くと、あたしの存在に気付いてくれた運転手さんが後部座席のドアを開けてくれた。
『すみません!先頭に居るバイク四台を追い掛けて下さい!なるべく距離を空けてお願いします!』
これまた運が良い事に、男達もまたタクシーと同じ信号に引っ掛かっていた。
男達は先頭に居て、賢く信号待ちしている。
──絶対に逃がさない。
あたしは心の中でそう呟いた後、車体の隙間から見えている男達を睨みながらギュッと強く右拳を握り締めた。
この時のあたしはまだ知らなかった。
自分のこの行動が近い未来、鳳皇と獅鷹を敵対させてしまう事になるなんて。
そして、哀しくてツラい運命の歯車を自らの手で廻す事になるだなんて。
この時のあたしは知る由もなかった。


