『じゃあこのまま帰るぜ?寄るとこねぇんだな?』
『俺はねぇけど』
『俺もー』
『俺も別に』
ヤバい。このままだったら逃げられる。
直弥さんが来るまで男達を見失わないよう追い掛けてきたけど、直弥さんはまだ来ていない。
このまま行けば直弥さんが来る前に逃げられてしまう。
『直弥さん、今どこ!?』
慌てて直弥さんに電話する。
けれど、直弥さんはあたし達の居場所をよく掴めていないらしく、あたし達が居る場所から少し離れた場所をうろついていた。
繁華街に詳しい直弥さんがあたしの居場所を掴めないのも無理はない。
何故なら、あたし自身、今自分が何処に居るのか把握出来ていないからだ。
繁華街の外れに居るという事だけは解る。
けれど、周囲に特徴的なものがなく、説明しようにも説明出来ないんだ。
『直弥さん!奴等が……!』
そうこうしている内に男達はバイクに跨り、エンジンを始動させている。
『直弥さんどうしたら……!』
マフラーから噴き出された白煙に焦りを感じ、声が自然と大きくなる。
男達に気付かれたかと思ったけど、幸いな事にエンジンの音で聞こえなかったらしい。
けど、聞こえた方が良かったかもしれない。
そうしたら自分の身が危なくても直弥さんが来るまで時間が稼げるから。
でも、そんなに上手くはいかないらしい。
『──行くぞ』
黒いバイクに跨った男がそう言うや否や、四台同時に噴かされたマフラー音。
『待っ……!!』
あたしの精一杯の制止の声は虚しくもマフラー音に打ち消されてしまい、
『そんな……』
あたしは走り去っていく男達の後ろ姿をただ呆然と見ている事しか出来なかった。


