「アンタは何も知らなかった桐谷さんに足早に詰め寄り、胸倉を掴んで捲くし立てた」
“許さない。アンタだけは許さない!!”
「…ゃ……」
「凛音!!」
「ヤメロッ……!!」
「その後はどうなったか解るよな?」
充くんの言葉はまるで扉の鍵のようで。
“アンタだけは絶対に許さないっ!!絶対に!!”
記憶の扉の鍵がカチャン、カチャン、と小さな音を立てて開いていく。
「……やぁ……っ」
──思い出した。何もかも。
まだ膜が張ってるかのように朧げだけど、あの時の事、会話、十夜の顔、全てを思い出した。
あたしが白狼の倉庫に乗り込み、先に十夜に手を出したんだ。
──あたしが、先に。
「その後、桐谷さんは訳が分からないまま向かってくるアンタと拳を交える事になった。
決着がついたのはそれから数十秒後。一瞬の隙を突いたアンタが桐谷さんを蹴り飛ばした」
「……っ、やめて!!」
もう……。
最後に開けられた扉の向こうに居たのは、大好きな十夜が顔を伏せ、蹲っている痛々しい姿。
「アンタが桐谷さんに怪我を負わせたんだよ」
「……やめ……っ、やだぁぁぁぁぁぁぁ………っ!!」
「凛音!!」
充くんのその言葉で、あたしの思考は完全に停止した。