「──シンは何処に居る?」
一番手前に居る男の目前で立ち止まった十夜が、抑揚の無い声色で静かにそう問い掛ける。
すると、男は今まで震えていたのが嘘の様に頭を大きく左右に振った。
「分からな──」
「言え」
「……っ、」
たった一言。されど一言。
それは、男を屈させるのに十分な言葉だった。
「た、ぶん上に……」
「上?」
不可解なその言葉に十夜の眉間に縦皺が刻まれる。
当然だ。
十夜達が居るのは工場と呼ばれる場所。
二階など何処にも見当たらない。
けれど、その疑問は男の次の一言で直ぐに解けた。
「あそこの扉から二階に上がれるんです」
男が指したのは工場の一番奥にある古びた扉。
「其処に奴等が居るのか?」
「さ、さっき上がって行くのを見ました」
「そうか」
そう返答した後、十夜の視線が扉から男へと移された。
「……っ、」
ビクリと肩を震わせる男。
その表情は怯えきっていて、戦意の欠片も残っていない。
「散れ」
十夜がそう言うと、そこにいた男達は助かったと言わんばかりに慌てて逃げ出した。
否、勇介を囲っていた男達だけではない。
周りに居た男達の殆んどが逃げ出した。
この機会を逃せば命は無い。
そう思ったのだろう。
「……総長」
気付けば倉庫の中には鳳皇、獅鷹のメンバー達しか残っていなかった。
「十夜!」
「ってか、お前何したんだよ?」
「いきなり逃げ出して行くから吃驚したっつーの!」
逃げ出した事によって敵から解放された煌達が十夜と零の元へと走ってくる。
「総長は何もしてないですよ。ちょっと凄んだだけです」
苦笑しながらさらりとそう言い放った零に煌達は顔を顰め、「ちょっと凄んだだけで逃げ出すとか、ムカツク」と不満を洩らす。


