「迎えに来ましたよ。凛音サン」
そんなあたしの心情を見抜いているかの様に“智広くん”の時と同じ口調でニヤリとほくそ笑んだチヒロ。
その笑みを捉えた瞬間、身体中の血が沸騰していく様な感覚に陥った。
グッと強く拳を握り締め、チヒロを睨み付ける。
チヒロもまたあたしを睨み付けた。
その鋭い視線に握った拳が徐々に硬度を増していく。
「………」
少しずつ掌に食い込んでいく爪。
掌に広がる鈍い痛みが今のあたしには丁度心地良かった。
湧き上がる怒りを上手く制御してくれている様な気がしたから。
「……っ、」
けれど、その無理矢理押さえ込んだ感情をチヒロはたった一つの笑みで簡単に引き摺り出した。
「……っ、凛音さんっ……!」
思考よりも先に動き出した両足。
我を忘れたあたしは無心で廊下を蹴っていた。
「凛音さん!!」
ただ思うがままに突っ込んでいく。
「凛音さん!!」
一際大きなその叫声にハッと我に返った。
けれど、時既に遅し。
我に返った時にはもう既に階段の手摺りを滑り降りていて、目前にチヒロの姿が迫っていた。
だが、それでも止まる事はない。
何故なら、今のあたしにはチヒロと拳を交える事に躊躇いなど一切無かったから。
あたしは──
『仲間を傷付ける奴は絶対に許さない』


