「充くん、何かあったら援護お願い」
「分かりました。けど、出来るだけ前には出ないで下さい。凛音さんに何かあったら俺……」
「分かってる。無茶はしない」
けど、出来るだけの事はするつもりだ。
「行こう」
「はい」
あたしの言葉を合図に一気に開け放たれたリビングの扉。
開けた瞬間耳に入ってきたのは、殴り合う打撃音と耳を塞ぎたくなる様な叫声。
直ぐ様廊下の格子から身を乗り出し眼下を見下ろせば、いつか見た光景と全く同じものが広がっていた。
「みんなっ……!!」
そう。あれはあたしが中田に捕らえられた時、第八倉庫で見たあの戦場の様な光景と全く同じもの。
違うのは此処に十夜達が居ないという事だけ。
「やっと来たか、東條 凛音」
「チヒロ……」
不意に聞こえてきたその声に振り向けば、階段の手摺りに凭れているチヒロと目が合った。
腕組みをしながら此方を見上げているチヒロはどこか愉しげに見えて。
その余裕に満ち溢れた笑みに少し戸惑いを感じた。
チヒロと会ったのはチヒロが鳳皇を出て行ってから二回目だけど、どうしてもその表情や雰囲気に違和感を感じてしまう。
あたしが知っているのは此処にいた時の低姿勢な智広くん。
目の前にいるチヒロとはかけ離れ過ぎていて、未だに二人が同一人物だという事が信じられない。
けど、目の前にいる男は確かに“D”の幹部だ。
あたし達の、敵。
だから、いい加減頭を切り替えなきゃいけない。
あれはチヒロの演技だったんだ。
あたし達を騙す為の演技。
あたし達は最初からずっと騙されていた。
“D”の手の上で踊らされていたんだ。
悔しい。


