遡ること数十分前。
それは十夜達が出発して十分程経った頃に起こった。
暇を持て余していた時に入った一本の電話。
それがそれまでの穏やかだった空気を一変させた。
『なんで、遊大から?』
──電話の相手は、捕らわれた筈の遊大。
遊大の名前を見た瞬間、二つの事柄が頭に浮かんだ。
一つ目は遊大が自力で抜け出して助けを求めてきたのかもしれないという淡い期待。
そして、二つ目は遊大の携帯を使って“D”が何かしら仕掛けてきたかもしれないという警戒心。
けれど、どちらかなんて考えなくても解っていた。
胸中にあるのはこれまで幾度となく感じてきた予感。
こういう嫌な予感程良く当たるというのは身を以て知っていた。
『──コンニチハ、東條 凛音サン?』
『……シン』
“やっぱり”
電話の相手。
それは、憎き男“D”のトップ、シンだった。
『返して。遊大そこに居るんでしょ!?今すぐ返してよ!なんで遊大を……!!』
連れ去ったの!?
最後の言葉は込み上げてくる怒りのせいで言葉にはならなかった。
沸き上がる負の感情。
溢れて止まないその感情に唇がガタガタと震えて止まらない。


