イジメに合っていた時も中田に攫われた時も。
そして、獅鷹総長である貴音に着いて行ってしまった時も。
凛音と離れると必ずと言っていい程何かしら起こる。
それがトラウマとなって十夜の心の奥底に滞っていた。
手を離せば何処かへ行ってしまいそうで怖い。
誰かに連れ去られそうで怖い。
貴音はその不安を感じ取っていたのだ。
いや、貴音だけじゃない。
その他の幹部達も感じ取っていた。
と言うよりも、皆十夜と同じ感情を抱いていたという方が正しいのかもしれない。
口に出さないだけで皆不安を抱えていた。
十夜はその不安を他の誰よりも表出していただけのこと。
平静を保つ余裕など一切無い。
目先の事に集中しなければと思えば思う程凛音の顔が脳裏に散らつく。
それは十夜が凛音の事を愛しているが故。
「──さっさと終わらせる」
十夜が凛音の事を心の底から愛しているから。
「そうだな。俺も早く帰って凛音に癒されてぇし」
しみじみとそう言い放った貴音に十夜の纏う空気が数度下がり、それと同時に車内の空気も一変する。
「……貴音、今十夜を弄ると後々面倒臭いからやめろ」
「ククク……悪ぃ悪ぃ。面白くてつい」
「まぁ気持ちは分かるけどよ」
眉間の皺が増えた十夜を見て、ヤレヤレとでも言いたげに肩を竦めた煌。
そんな煌とは対照的に、貴音は口笛でも吹きそうな程満足げに笑っていた。
「はぁ……」
助手席にいた優音はと言うと、耳に入ってきた三人の会話に後部座席に座らなくて良かったと心の底から安堵していて。
それを横目で見ていた運転手は口元に手を添え、苦笑していた。


