「俺よりお前の方が心配だ」
「あたしは大丈夫だって!充くんもいるし!それに、十夜の事だから倉庫の外に傘下の人達待機させてるんでしょ?」
「………」
「やっぱり」
あたしの言葉に気まずそうに視線を逸らした十夜を見て、流石あたし、と心の中でピースした。
十夜心配性だから、充くん達の他にも絶対誰か待機させてると思ったんだよね。
しかもこの様子だと結構な人数を待機させてるっぽいし。
「それだったら尚更大丈夫だよ!」
「………」
「ホラ、早く行かないとみんなに文句言われるって!」
ね?と余裕たっぷりに微笑むと、早く早くと言いながら十夜の背中を両手で押した。
「十夜、行かないの?」
靴を履いた後、何故かあたしを見つめたまま黙り込んでしまった十夜。
その表情は冴えず、今から抗争に行くとは思えない。
「十夜、あたしの心配よりも皆の事だけを考えて」
あたしは抗争に参加しない。
だから心配する事は何もないんだよ。
あたしよりも皆の方を心配しなきゃ。
「お願いだから無茶しないでね。怪我も、絶対しないで」
そう言いながらそっと十夜の瞳を覗き込むと、十夜はあたしの背中に両腕を回し、ギュッと強く抱き締めてくれた。
「すぐ帰ってくるから」
首元に顔を埋めながらそう言った十夜にあたしはうん、と短く返事し、抱き締め返す。
「行ってくる」
「……うん」
互いの温もりを確かめ合った後、どちらからともなく離れたあたし達はコツンと額をぶつけ合った。
そして、短いキスを交わす。
「いってらっしゃい」
その言葉を最後に、十夜はリビングから出て行った。
パタン、と静かに閉まった扉。
扉の向こうへ消えていった十夜の背中が何故か頭にこびりついて離れず、あたしは少しの間その残像に囚われたままその場に突っ立っていた。
“胸中に感じるこの淀みの正体は一体なに……?”


