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遊大が攫われたと連絡が入ってから数十分後、鳳皇に一台のワゴン車が到着した。


そのワゴン車に乗っているのは貴兄達獅鷹幹部。


鳳皇幹部をはじめ、倉庫内全員の視線がそのワゴン車に集中し、ドアが開けられるのを今か今かと待ち構えている。


重々しく張り詰められた空気とワゴン車を見据える皆の鋭い双眸。


それがまるで敵を出迎えているかの様に見えて。


今が最悪な状況だという事を嫌という程思い知らされた。






「貴兄!」


荒々しく開けられた後部座席のドアから降りてきたのは、獅鷹総長である貴兄。


いつもなら目が合った瞬間優しい笑顔を向けてくれるのに、今日は笑顔の一つも見せてくれない。


貴兄の後方へと視線を滑らせれば、副総長である慧くんが降りてくるのが見えた。


慧くんの後には時人くん。

そして、時人くんの肩に乗っているフーコとジュニア。


フーコとジュニアは抗争中、倉庫で待っているあたしの為に時人くんが気を利かせて連れてきてくれたのだろう。


いや、そんな事はどうでもいい。

それよりも、あたしが心配なのは優音だ。


詳しく聞いていないから分からないけど、貴兄が電話で“優音が怪我した”と言っていた。


大した怪我じゃないと言っていたけど、降りて来ないって事は動けない程酷い怪我なんじゃ……。