「あたし、十夜の髪の毛好きだなー。真っ黒な瞳と真っ黒な髪の毛が凄く似合ってると思う」
心の中で思った事をそのまま口に出すと、乾かしている間一度も振り返らなかった十夜が何故か振り返ってきた。
しかも珍しく目を真ん丸に見開かせて。
「十夜?」
あたしなんか変な事言ったかな?と自分の発言を振り返ってみたけれど、特に変な発言なんてしていない。
ただ十夜の髪の毛と瞳が好きだと言っただけだ。
「……それ」
「うん?」
「母さんにもよく言われた」
「……え?」
母さん……って十夜のお母さん?
「俺、顔はどっちかって言うと母さん寄りなんだよ。けど、この真っ黒な髪の毛と目は父さん譲りで、母さんは俺の髪や目を見ていつも嬉しそうにしてた。
“十夜を見るとお父さんとの繋がりを感じる”って」
お父さんとの繋がり……。
「……だから十夜は髪の毛染めないんだね」
お母さんが大好きだったから。
お父さんから引き継がれた大事な髪の毛だから。
だから染めなかったんだ。
「十夜……」
ドライヤーをベッドの上へそっと置き、後ろから十夜を抱き締める。
「遥香から全部聞いたんだろ?」
「……うん」
「そうか……」
十夜は今、お父さんとお母さんの事を思い出しているのかもしれない。
二人に愛された日々を、一緒に過ごしてきた日々を忘れる事のない様にその胸に何度も何度も刻んでるんだ。
「──俺には両親が二人いる」
きっと、数え切れないぐらい何度も何度も──