あたしの言葉を遮ったのは救急箱を取りにいっていた遥香さん。
「遥香さ──」
「充くん、心配してくれてありがとう。私はもう大丈夫だから」
「でも……っ、」
あたしの隣に腰を下ろした遥香さんは充くんに優しく微笑みかけた後、首を左右に振りながら救急箱を静かに開けた。
中から取り出したのはピンセットと消毒液。そして、小さくカットされたコットン数枚。
「沁みたらごめんね」
遥香さんはコットンに消毒液をつけると慣れた手付きで傷口を消毒し始める。
「……っ、」
「うへー、超痛そう~」
消毒されている充くんを見て陽が顔を顰める。
まるで自分が消毒でもされているかの様なその表情に思わずプッと噴き出してしまった。
ホント陽を見てると飽きない。
「そういや十夜達遅くね?」
「……っ」
十夜という単語にビクッと飛び跳ねた肩。
……そうだ。忘れてた。充くんが此処にいるという事は十夜も帰って来てるという事なんだ。
「十夜……」
その事に気付いた瞬間、落ち着いていた感情がまるで爆発したかの様に一気に押し寄せてきた。
早鐘の様に波打つ心臓。
それが脳内にまで響き、支配されたかの様な感覚に陥る。


