「理由はまた後で十夜から聞いて。……あ、でも一つだけ言っていいかな?」
「あ、はい」
「十夜は私の為に別れたんじゃない。自分の為。自分の欲望の為に別れたの」
「……自分の、欲望の為?」
「そう。ご両親が亡くなってから十夜が初めて見せた欲望。……だから別れたの。十夜の幸せの為に別れた」
「十夜の、幸せの為……」
十夜の欲望って一体何……?
遥香さんと別れてまで欲したものって一体……。
「まさかあの時はこうなるとは思ってもみなかったけどね」
……え?
「それってどういう……」
意味深発言に眉根を引き寄せ、首を傾げた――その時。
「凛音!遥香さんお待たせ!」
「りっちゃぁぁぁん!俺寂しかったぁ~」
勢い良く開いた扉から陽と彼方が充くんを抱えながら入ってきた。
「充くん!」
充くんを見たあたし達は直ぐ様会話を中断し、充くん達の下へと駆け寄る。
「充くん大丈夫!?」
「彼方、陽、充くんをソファーに連れていってあげて!」
傷だらけの充くんを見た瞬間、遥香さんの顔色が一変したのが分かった。
否、遥香さんだけじゃない。あたしも同じだ。
それほどまでに充くんの顔は傷だらけだったから。
充くんの顔には至る所に擦り傷があり、口端には殴られた痕。
辛うじて原型は留めているが目蓋は腫れ上がっており、髪も服もボロボロ。
二人に支えられてどうにか歩けるという状態だった。
「充くん……」
変わり果てた充くんの姿に何とも言えない感情が込み上げてくる。
アイツ等、絶対に許さない。
利用するだけしておいて用済みになったらリンチだなんて、本当に腐ってる!


