「……ミャー」
時々聞こえてくる鳴き声
「ニャア」
少しずつ大きくなる、鳴き声。
まだ寝ていたいよ…鳴かないで…。
私は寝返りをうった。
すると鳴き声の主は私のベッドを歩き、私の足元まで行った。
その瞬間、
『ドスンッ!!』
「うっ?!」
私の横っ腹に思い切りのしかかってきた。
「…みゃーこ…やったな……」
みゃーこ とは、私が買っている太ったデブ猫。
外に出してないせいか、運動不足なだけか、拾った時は痩せていたのに今じゃまんまるに太っている。
そのせいでのしかかられると重くて重くて…。
「ふぁあぁぁ…」
私はみゃーこの重い身体を抱っこして、リビングまで歩いた。
「おかーあさん。おはよ」
「おはよう。遅かったわね?」
お母さんはニコリと笑いながらこちらを見た。
…お母さんがみゃーこを私の部屋に入れたんだ…。
いやほかに家族なんてこの家にいないけどさ。他に家族なんていないとは、どういう意味かというと。
私のお兄ちゃんは、12歳の時に誘拐された。
私がまだ4歳の時。夕方だった。夕方と言っても夕日が綺麗な時間帯じゃなくて、夕日も降りて辺りが少しずつ暗く不気味になっていく、そんな時間帯。
『友達の家に忘れ物したから取りに行ってくる!』
そう、玄関で大きな声でお母さんに伝わるよう話していた。
そしてお兄ちゃんが靴を履いて立った時、ザワッとした。嫌な感じがした。
『私も行く!!』
不安があった。4歳だからその時は不安とかよくわからなくて、でもときかくお兄ちゃんを行かせちゃダメだ。ついて行かなきゃダメだ。そう思ってお兄ちゃんにしがみついた。
『…大丈夫だよ。すぐ戻ってくるから。お前はここにいて、お兄ちゃんの帰りを待っていてくれ。な?』
『…………………うん…』
優しく、優しく優しく触れてくれる、頭を撫でてくれる手に安心して、私はつい頷いてしまった。
『いい子だな、華ちゃん。自転車ぶっ飛ばして行くから、20で帰ってくるから。いい子にしてろよ?』
『……ん。気をつけてね…?』
『うん!行ってきます』
『いってらっしゃい…』
そしてお兄ちゃんは20分待っても30分待っても、一時間待っても帰ってこなかった。ずーっと、帰ってこなかった…。
………あの時私がもっと引き止めてたら良かったのかな……。
お父さんは、お兄ちゃんの誘拐事件で必死に手がかりを探して、仕事してお金稼いでいろいろ情報を集めたけど全部ダメで、絶望して自殺した。
お兄ちゃんとお父さんがいなくなったことによって、お母さんはショックで一時期育児放棄になっていた。今はいつも通りのお母さんだけどね。
家族がお母さんしかいないのは、そういうわけだ。
そういえば、華ちゃんって呼ばせてるのお兄ちゃんにだけだなぁ…。