「やあ、よくお会いしま…」
「あれぇ、大神さん?大神課長じゃないですか!
 オオカミ課っ長ぉ~~」

 聞き覚えのある間延びした声に、この間の悪さ…

 振り返ると、はるか向こうのベンチから、ぶんぶんと手を振る女が1人。


「赤野……燈子」

 大神はクルリと方向を転換した。

 怪訝な様子でこちらを見ている美女には背を向けて、声のする方へと駆けていく。

 名残にちらりと後ろを見ると、肩をいからせながら嫌がるプードルを引っ張っている、彼女の背中が見えた。


「奇遇でふねぇ」

 両手に大事にコッペパンを包み、いかにも幸せそうにパクついているチビ女は、赤野燈子(あかのとうこ)。

 大神の不肖の部下、かつ彼の不毛な片想いの相手でもある。

「ま、まあな。
 どうした。何やってんだこんなところで」

 アムッ。
 パンを包むその両手が、頬張る口元が…

 なんかエロい。

 またしても妄想に浸っていた大神は、かろうじて平静を保った。

「ヤダなあ、見たら分かるでしょ?
『食欲の秋』ですよ。
 ちょっと太っちゃってね~、ダイエットにジョギングを始めたってわけでして。
 あ~、さては課長も?
 メタボの気になるお年頃ってやつでしょ?」

「バカいうな!
 言っとくが、俺の体脂肪率は…フッ、9%だ」