「-_+,.-.(>>††Π-」



ヘケイトさんの口から、今まで全く聞いたことのない音の連なりが漏れた。


前の世界でも、今の世界でも、触れたことがない。


どこかの国の言葉なのかもしれないが、それは、まるで人間とは異なった価値観を持つ生物達の言語のようだった。



「……?」



温かい何かが、ヘケイトさんの指から私の中に流れ込み、体の一番奥の部分まで到達した。


温かい、といっても、明確に熱を感じるわけじゃない。

でも、それが何がしかの見えないエネルギーだということは、本能的に理解した。


そのエネルギーが、体の奥から額に向かって急速に浮上する。

ヘケイトさんが私の額から指を離すと、目の前に四色の光が現れた。



「……う?」

「流石です、やはり、四属性全ての系譜をお持ちなのですね……」



すぐ近くで、ヘケイトさんの恍惚とした声が聞こえる。



赤、青、黄色、白の四色の光は、その明るさを失うことなく私の周りを浮遊している。

四属性、とヘケイトさんが言っていたから、この一つ一つが属性の色だったりするんだろうか。



「赤い光が火属性、青い光が水属性、黄色い光が土属性、白い光が風属性ですよ。……って言っても、まだ分からないですよね」



いや、なんとなく分かります。と心の中で呟く。

ゲームの中でよくあるアレだ。ファンタジー文化にべったり浸かった日本人の若者なら、誰だって理解できる。


もしかして、私、すごいのかな。全部の属性を持っているキャラクターなんて、大体がチートだ。

明るい将来に思いを馳せていると、浮遊する光が、目の前の鏡を照らした。


そういえば私は、今まで鏡を見たことがない。つまり、私自身の姿を見たことがないんだ。

ダディーの部屋に鏡のような物は無かったし、今まで部屋を出たことが無かったから、当たり前と言えば当たり前だけど。


きっと、ダディーと同じ金髪に金色の瞳だ。ダディーが美形だから、私も期待して良いのかもしれない。




ドキドキしながら、目の前の鏡を覗きこむ。

鏡では、長めの金髪の、可愛らしくて幼い女の子が、こちらを覗きこんでた。





「――――――――え?」





鏡の中の女の子と目が合う。

女の子は、青い目を見開いて、私をじっと見つめてる。





女の子、は、青い、目、を、見開い、て、青い、目を、青い、青い、目。





「……っあ、あぁ……ぁ、ぁ……っぁぁあああ!!!」





信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。信じられない。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。この子は、私じゃない。絶対、私じゃない。きっと、私じゃない。こんなの、私じゃない。違う、私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。私じゃない。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。



何のために死んだんだ。
何のために自殺したんだ。
何で私が、生きることから逃げたしたと思ってるんだ。
何で私が、すべてを捨てたと思ってるんだ。
何で私が、自分の体をぐちゃぐちゃにして死んだと思ってるんだ。






何から逃げて、ここにいるんだ。






鏡の中の女の子の――――私の瞳は、透き通った青。

前世と全く変わらない、青い、瞳。