ダディーが、さっきまでいた部屋とは、別の部屋のドアの前に立って誰かを呼んだら、一秒もせずに飛び出してきた。


黒い髪をおかっぱのようにしている上に小柄なので、一瞬子供なのかとも思ったが、違う。


声も顔立ちも、体つきも明らかに大人の女性のものだ。

褐色の肌をかなり露出している服装だからか、豊満な胸や綺麗なくびれが際立っている。


ヘケイトさんは、ダディーの顔を見た後に、私に目を向けて、緑色の瞳を丸くした。


私は反射的に――体ごとヘケイトさんから目をそらす。

目を、絶対に、見られないように。



「……ぅ」



精神が肉体に影響されていたとしても、前世での癖が、まだ抜けていなかった。


十七年間積み重ね続けた恐怖は、生まれ変わってなお、私の心に根付いている。

肉体に、影響されない程、深い場所に。



「ラティアちゃん!?ラティアちゃんですか!?」

「そうだ。そうだが、落ち着け。ラティアが怯えているであろう」

「はぅっ!?……も、申し訳ございません……怯えちゃってますか……?」

「我輩に謝ってどうする……まぁ、ラティアは部屋の外へ出るのが初めてだからな、怯えるのも仕方あるまい」



普段とはうって変わった口調に驚いて顔を見ると、ダディーはヘケイトさんにお皿を預けて、私の頭を撫で始めた。



「大丈夫だよ、この人、声が大きいから驚いたね」

「うん……」

「ダディーの知り合いだよ」

「な、ななな、何ですか、その喋り方!?どうされたんですか!?熱ですか!?今すぐ治癒を!」

「ヘケイト、黙れ、騒々しいぞ」



普段、私以外の人と話すときは、こんなに仰々しい口調なのか、この人は。

何というか、とんでもない衝撃というか、一人称が「我輩」って時点で軽く引いた。なんだそれ、猫か、名前が無い猫なのか。


ヘケイトさんは、私と話すダディーの姿が相当ショックだったらしい。



「せ、せーじゅう様……せーじゅーさまが……」



虚ろな目になってる上に、呂律が回っていない。イっちゃってる人の雰囲気になってる。