『もしもし』

「あ、カ、カイト?」

緊張で声が震えた。

『ミナミ?』

ミナミ?と言う声は、カイトではないような気がした。

「カイト、だよね?」

『ミナミ、もう俺の声忘れた?』

え?

その声。

・・・嘘でしょ?

「まさか、まさかだよね?」

『ナオトだよ。ミナミ、久しぶりだね。』

これは何?

いきなりのファンタジー?!

天国に逝っちゃったナオトと電話で繋がってる?

頭の中が混乱する。

『ミナミ、ほんと見ててじれったい。もたもたしてたらカイトのやつ本当に行っちゃうぞ。』

「ナオトなの?本当に?」

『まさか10年後、まだ結婚してないなんてあの時は思いもしなかったよ。カイトの奴も律儀に俺との約束守ってさ。ほんと、お前達二人とも何考えてんだか。』

「・・・カイト、大丈夫かな。」

これが現実なのか夢なのかわからない。

妙に冷静にナオトの声を聞いてる自分がいた。

『カイトだったら大丈夫。信じていいよ。ミナミが幸せになってくれなくちゃ、俺も苦しいままだよ。』

「私、カイトにきちんと思いを伝えてみるよ。」

『その言葉聞けて俺も安心したよ。』

「ナオト、私もあなたの声が聞けてよかった。」

『幸せになるんだぞ。』

「ありがとう。」

『ああ。またいつか。』

電話が切れたと同時に、けたたましいベルの音が耳元で響いた。

目を開けると、私は自分のベッドの中にいた。

夢、だったんだ。

夢の中で聞いたナオトの声、久しぶりだった。

全然変わらない、少し高音で優しい声。

体を起こすと、涙が頬をつたった。

ナオト、きちんとカイトに言うね。

カレンダーを見ると、20日は明日だった。