パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを


あっくんを呼ぶ聞き慣れない声に顔を上げると、そこにはひとりの女性が立っていた。


――まさか、あっくんの……?


即座に、嫌な予感が胸を過ぎる。

肩のあたりで軽くカールした髪の毛。
大人っぽいタイトなシルエットの黒いチェック柄ワンピ。
清楚なお嬢様という雰囲気を醸し出した女性だった。


「いや、俺たちも今来たところだから」


さり気なく自分の隣の椅子を引いて、その彼女を座らせた。

……誰、なの?

ついさっきまであっくんとのふたりきりの雰囲気に酔いしれていた私は、完全に孤立してしまった。
メニュー表を持つ手が震える。


「二葉、こちらは――」

「野原紗枝(のはら さえ)です」


あっくんの紹介を遮って、彼女が頭を下げる。
「二葉です」と、私も慌てて挨拶を返した。


知りたくない。
彼女があっくんにとってどういう存在なのか、知りたくない。
防衛本能が警告を発する。