パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを


指を差されたのは、書類の山が比較的小さな机だった。

新人に対する、ちょっとした気遣いなのか。
言われるまま、そこへ足を進める。
よく見ると、使ってるの? と疑問を持ちたくなるほど埃の被ったパソコンがあった。


「それから、私は一応ここのトップ……と言えば聞こえはいいけれど、何せ部署が部署だけにねぇ……」


ハハっと頭を掻いて見せた。
自分でも窓際の自覚はあるみたいだ。


「部長の菊池です。よろしくお願いしますね」

「こ、こちらこそ」


穏やかな笑みを浮かべる菊池部長に、私ももう一度頭を下げた。


「あの……他の方たちは?」


今のところ、この事務所に部長以外の人の姿は見えない。
いくら窓際だからといって、部長ひとりの部署ではないだろうし。


「ああ、彼らなら検品作業中ですよ。朝一の荷物がちょうど到着したところですからね」

「そうですか。あの……私は何をしたらよろしいですか?」


「そうですねぇ……」


うーんと考え込む菊池部長。

仕事、ないんだろうか。
不安はさらに倍増していく。


「それじゃまずは、机の上を片付けてもらいましょうか」

「……あ、はい」


机の整理、ね。
それって、私がここへ来ようが来まいが、仕事に別段支障はないということなんだ。
事務員が必要で呼ばれたわけじゃない。
まさに“左遷”だ。

菊池部長には聞こえないように小さく溜息を吐いた。

……でも、相原部長がここへ飛ばされるよりはずっといい。
相原部長に机の整理なんてさせられない。

気を取り直して取り掛かった。