まるで、藤吉さんの絵じゃないような……。


「手を取り返す事で、才能があたしにうつる。そういう事だよ」


「そんなの、ありえない……」


エレナが左右に首をふってそう言った。


「そう?」


藤吉さんは笑みを浮かべたままスカートからスマホを取り出した。


そして、一枚の写真をあたしたちに見せて来た。


それはあたしもエレナも校内で何度か見たことがある、藤吉さんの絵だった。


描かかれている物が違っても、優しい筆のタッチでわかる。


「これが一週間前に描いたあたしの絵。こっちが、さっきかき上げたばかりの絵」


そう言い、2枚目の写真を見せる。


藤吉さんの席から外の風景を描いた物で、優しいタッチはそのままにまるで写真のような絵が描かれている。


「嘘……」


エレナが呟く。


「この手を使いこなす事ができれば、あたしは必ずプロの画家になれる」


藤吉さんはそう言い、うっとりするように自分の手を眺めた。


何も食べていないのに、胃液がせりあがって来るのを感じる。


確かに目の前にある絵は素晴らしいし、プロでもやっていけると思う。


でも、藤吉さんは元々絵が上手だったのだ。


頑張れば将来プロでも通用したかもしれない。


それなのに自分の手を切り落としてまで才能を欲しがるなんて……それが、恐ろしかった。