「本当は休むつもりだったんだけど、気になって……」


「そっか。あたしも同じだよ」


あたしは頷いてそう言った。


「2人とも、昨日来てたでしょ」


藤吉さんにそう言われ、あたしとエレナは同時に振り向いた。


藤吉さんはコキコキと肩を鳴らしてあたしたちに近づいてくる。


「どしてそれを……?」


「ステージ上からは会場がよく見えるから。2人が逃げ出そうとしている所もちゃんと見てたよ」


藤吉さんはそう言っておかしそうに笑った。


「笑う所じゃないでしょ!?」


あたしは思わずそう言っていた。


同じクラスメートが手首を切断されている。


その光景を見た時の衝撃は計り知れなかった。


「ごめんね。オークションが初めてならああなっても仕方がないよね」


ひとしきり笑った後、藤吉さんは目に浮かんだ涙をぬぐいながらそう言った。


「藤吉さんはあんなオークションに何度も参加してるの?」


「もちろん。あたしはずっと自分の欲しい物を探してたから。そして昨日、ようやく見つけた。


ここで競り落とさないと二度と買う事はできない。そう思って一億の値段をつけたんだよ」


まるでテレビ番組の話をするような口調で、当たり前のように話す藤吉さん。


昨日出来事はこんな風に朝から友達同士で会話できるような事じゃないはずだ。



だけど、藤吉さんは全く大丈夫そうな顔をしているから、あたしは混乱してしまう。


「オークションについて、またしっかり教えてあげるね」


藤吉さんはそう言うと、再び絵を描きに自分の席に戻って行ったのだった。