「ありえない……」


ようやく声が出た。


と、同時に不快感が体中を駆け巡り強い吐き気が込み上げてくる。


エレナを見ると小刻みに震えていて唇が青くなっている。


「ここを出よう」


あたしがエレナの手を握りしめたまま立ち上がった。


震えながらもなんとか出口まで歩いて行く。


しかし、ドアの前にはスタッフの男性が2人仁王立ちをして立っていたのだ。


「すみません、気分が悪いから外に出させてください」


今にも吐いてしまいそうだ。


広い会場内に血の臭いが充満しているのがわかる。


鉄の臭いが喉の奥まで入り込み、胃液が込み上げてくる。


「できません」


スタッフの男性は穏やかな口調でそう言った。


しかし、その目は笑っていない。


「どうしてですか!?」


声を出すと胃の中の物まで全部ぶちまけてしまいそうになる。


あたしは唾を飲み込んでどうにかそれを押し込んだ。


「オークションが終わるまで出られないようになっています」


「でもっ……!」


その時、エレナがあたしの隣で崩れるようにして倒れ込んだ。