でも、その原因を探ることも今のあたしにはできなかった。


最初は不安や絶望が胸を埋めていたけれど、最近ではそれもなくなっていた。


単調な毎日を過ごすうちに、徐々にこの環境にすら馴れてきている自分がいる。


そんな自分を恐ろしいとも感じるが、同時に適応してしまった方が楽だと感じる時もあった。


足をかいていると突然刑務官が現れ、


「面会!」


と言って来た。


「面会……?」


あたしは首を傾げる。


この顔になって北川藍那という名前さえ名乗れなくなっているあたしに、面会はあり得ない。


入所当時、両親が北川藍那を誘拐した犯人として話を聞きに来たことはあるが、それ以来誰も訪れてはいなかった。


「キビキビ動け!」


怒鳴られて、あたしはようやく立ち上がった。


牢屋の鍵を開けられて、両手に手錠をはめられる。


ずっしりと重たいこの感覚は、何度経験してもなれなかった。


面接室まで移動するとドアが開けられ、長いテーブルとアクリル板の仕切りが現れる。


その向こうに座っていた人物にあたしは目を見開いた。


「元気?」


ニコッとほほ笑んでそう聞いてくるその人にあたしは唖然として返事もできなかった。


「石澤先輩……どうして……?」


あたしはよろめくように歩いて丸椅子に座った。


石澤先輩は華やかな服を着ていて、タレントの仕事の途中で抜け出してきたように見えた。