マンマルマラソンが終わってから、あたしの家には連日報道陣が押しかけていた。


スポーツ新聞の一面をあたしが飾り、日本中からファンレターが届く。


平凡な日常がガラリと変化した。


「藍那にここまでの才能があったなんてねぇ」


休日、リビングでテレビを見ているとお母さんがそう言った。


丁度テレビではマンマルマラソンについて報道されていて、有名なニュースキャスターがあたしの事を絶賛している所だった。


「偶然だよ」


あたしはほほ笑んでそう返事をした。


マラソンの後すぐに支払われた賞金で、借金はすべて返済。


今のあたしを縛るものはもうなにもなかった。


この足はもう完全にあたしのものだ。


だから嘘をつく事に罪悪感もなくなっていた。


「次はどんな大会に出るの? マンマルマラソンの次はやっぱり世界大会とか?」


「どうかなぁ?」


あたしは曖昧に返事をした。


あたしの実力が世界に通用することは知れ渡っているのだから、当然世界を見ているものだとみんな思い込んでいるようだった。