「そうですか?」


あたしは首を傾げてそう聞き返した。


部員のみんなが遅くて体力もないだけのように感じられる。


「そうよ! あれだけ走って息もきれてないし、どんなトレーニングをしているの?」


「いえ、とくには……」


あたしは曖昧な笑顔を浮かべて誤魔化した。


適当なトレーニング方法を口にしても、すぐに嘘だとバレてしまうから。


「でも、陸上経験はあるんでしょう?」


「走ることは好きですけど、陸上をしたことはないですよ」


そう言うと、先生は目を見ひらいてマジマジとあたしを見て来た。


「天性の才能ってやつかしら? よくわからないけど、あなたみたいな人を今まで見たことないわ」


先生にそう言われて、思わず照れてしまう。


しかし、次の言葉であたしは笑顔を消した。


「陸上部に所属してくれるのよね?」


「え……」


確かに最初はそのつもりで見学に来た。


でも、ここではレベルが低すぎて練習にもならない。


「できれば、賞金がもらえるマラソンなんかを教えてほしいです」


あたしがそう言うと、先生は少し表情を曇らせて「一番よく知られているのはマンマルマラソンね。1位になれば一千万近くの賞金が出るのよ」


「一千万ですか!?」


あたしは目を見開いて先生を見た。


マンマルマラソンは毎年この時期に開催されている有名なマラソンで、最初から最後までテレビ中継もされている。


有名な選手たちがこぞって参加し、競いあっているのだ。