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小学校の頃、50メートル走で8秒台だった。


中学の頃の体育祭ではアンカーを務め、1位を取った。


足の速さには昔から自信があったけれど、本格的に陸上をすると言う気はなかった。


走ることは楽しいけれど、毎日頑張って練習するほどの楽しさを感じられなかったからだ。


自分にはもっと合ったものがあるんだ。


そう思い、高校に入学してからは結局走ると言う事自体から疎遠になっていた。


いつしか走る楽しさを忘れ、他の何かに没頭する……そう思っていた。


しかし、久しぶりに走り出したあたしは笑顔だった。


風を感じながら通学路を走り抜ける。


生徒たちの姿はほとんどなくて、遅刻が確定してしまった生徒がダラダラとけだるそうに歩いているだけだった。


そんな生徒たちを追い抜いてあたしは走った。


どう考えても遅刻だという時間に家を出たあたしは、ホームルームのチャイムが鳴る寸前で教室の席に座っていた。


「ギリギリだね」


エレナが少し呆れたようにそう声をかけてきたので、ペロッと下を出して笑った。