自殺 ~飛べないカラス~

「それじゃ、僕は用事があるからこの辺で」


 何事もなかったかのように、颯爽と立ち去ろうとする背中を見て、私は反射的に引き止める。


「待ってください……!」

「なに?」

「あの……ありがとうございました!」

「……礼を言われるようなことは何もしていないけど?」

「でも、言わさせてください!ありがとうございました!これから先、何があるのか分からないけれど……私、もう少しだけ、生き続けてみようと思います」


「……そう。

 ――まあ、気楽に、ね」


 その言葉を最後に、その人物は私の視界から消え、どこかへと去っていってしまった。


 ……きっと、生きている間に地球上にいる60億人全員に会うなんてことは出来ない。

 今、こうして息をしている間にも誰かが死に、誰かが生まれてくるのだから。

 だからこそ、その地球上に生きている……出会えたことが奇跡であるたった1人のあなたとの出会いを、交わした言葉を、大切にしようと思ったんだ。

 その人物が言っていた言葉を大事に胸にしまい込んだ私は、誰でもない自分のための今を生き続けるために、一歩、足を踏み出した。

 私がこうして生き続けている限り、名前も知らないあなたとは、再び地球上のどこかで出会うことが出来る、と……信じて。


 自殺 ~飛べないカラス~

 【了】