泣き虫とヒーロー ~約束の四つ葉のクローバー~



「…ん。」

弱々しく返事をする私の声を待っていたかのように

また話し始める郁人。

「一緒に登下校もしない。」

「…うん。」

震える声。

もう聞きたくない。

いやだ。

これ以上、もう、やめて。

いやだ。


この先の続きの言葉をわかっているから

聞きたくない。

耳を塞ごうとした視界の端に映った郁人の表情が私より何倍も苦しげな表情で

耳を塞ごうとして上げた腕は宙に止まったまま

それに気づかないで、

自分の表情に気づかないで…

私が見ていることも気付かないで…


今までで一番残酷な言葉を放った。






















「もう、俺と奈緒は幼馴染でも友達でも親友でもない。

これからは赤の他人だ。」


その瞬間思いっきり吹いた風が、

私の結われた髪とワンピースを揺らした。

風に乗って聞こえてくる

電車がホームに入る前の

大きな音とアナウンス

それと同時にホームに滑り込んできた電車。

人があまりいない電車。

プシューと開いた扉。

乗りたくない。

離れたくない。

郁人を見つめていると、

私を見つめて切なく笑った郁人は、

私の背中をトンッと押した。

「俺用事あるから先に帰ってて…」

郁人は乗らずに電車のドアが閉まって、

窓に手を当てる私の手に合わせて手を当てた郁人の手は大きくて、

大好きな手で、

私は涙を流した。

最後に、

【わ、ら、っ、て】

郁人の口が紡いだ言葉。

私は泣くのをこらえて無理矢理笑った。

その笑顔を見て今にも泣きそうな笑顔を浮かべた郁人を残して…

電車は走り出した。