そして、行き先も言われぬまま私の荷物を持ってくれている郁人と電車に乗ることになり、
切符口へと切符を買いに行こうとすると、
「もう買ってあるから行くぞ。」
と言う郁人に思わず目を見開く。
「いくら?」
とお財布を持ちながら聞くと、
「いいよ。」
と少しだけ笑う郁人に
「だめだよ!出すから!」
と言うと、
「ここは黙って男に奢られとけ。」
と今度は普通に笑ってくれた。
だから、私はありがとう。と言って、
「じゃあ、今度は私出すね。」
と当たり前ように言うと
「今度、な。」
と寂しそうに笑う郁人に眉間に皺が寄る。
「郁人?どうし『___ピピピピー、間もなく3番線に電車入ります。』
アナウンスの声でかき消された私の声は郁人の元へ届くことがないまま、
私は郁人と3番線へと向かった。
3番線のホームではぐれないようにいつの間にか繋がっていた手。
いつもは繋がない手が、
郁人の悲しそうな顔が、
「郁人、どうしたの?」
私は郁人の頬に手を伸ばして聞いていた。
少しだけ冷たい郁人の頬に手を当てて、
見つめると、悲しそうに瞳を揺らした郁人は、
人がたくさんいる前で私を抱きしめた。
驚きながらも抱きしめ返すと、
「ごめんな。
ごめん、今だけは何も言わないで。
今日だけは、楽しもう。」
私を離してそう儚く笑った郁人に頷くしかなかった。


