近頃はやたらと残業することに厳しい世の中になりつつある。

ブラックだかホワイトだか知らないが、働き過ぎをさせないように…とお上が仰るせいだ。



「独り者には冷たい世の中だよな…」


パソコンの電源を落として窓の外を見据えた。

以前いた会社の窓から見えていた景色と違って、ここでは街路樹の緑が多く見える。

その枝ぶりが映し出される窓ガラスに、自分1人だけの姿がぽつんと佇んでいる。

顔色が悪そうに見える表情には、物悲しい雰囲気が漂っていた。



帰るか…と思い立ってデスクの上を眺めた。

以前勧められた漫画本が目に留まり、(しまった。そうだった…)と思い出した。


表装カバーの頭が潰れかかり、紙の表面が薄く褐色化している本を手にした。

年季の入っている本は、それでも皺一つなく保管されている跡があった。



(読んでみよう…)という気になり、表紙を捲った。

つまらなければ途中で止めればいい…くらいの感覚だった。



描かれてある図柄は、昭和女子が好きそうな感じに思えた。

『津軽芽衣子』のことなど何も知らない俺からすれば、その程度のことしか感想として上らない。

ジレジレとした登場人物の関係性を目で追いながら、なんて煮えきらない男なんだ…と腹の立つシーンがあった。



「好きなら好きって言えばいいじゃないか。相手だってまんざらではなさそうなのに…」


ポロリと零れた独り言を笑った。