商店街の中を抜けると、道は左右に分かれている。

左手に進めば、納骨堂のある菩提寺へと辿り着く。

右手に進めば、あの殺害現場だった我が家の跡地に着いてしまう。


三叉路で立ち止まり、暫く動けなかった。

確実に速くなる鼓動に眩暈を覚えながら、気持ちを強く持って進もうと決めた。



「……こっちだよ」


右の道へと向かいだした時、彼女の足が一瞬だけ止まった。

再び進みだした足音に気を取られながら、懐かしい道を歩きだしたーー。



通っていた小学校の門扉が見えてきて、窓の方から卒業式の練習歌が流れてくる。

自分が通っていた時とは違う雰囲気の曲に耳を傾けながら、「最近は歌謡曲みたいなのを歌うんだね…」と囁いた。



「ええ…」


短く答えた彼女は、俺の様子を度々確かめながら無駄話もせずについて来る。

その眼差しに気がつき、「大丈夫だから」と声をかけた。


「でも…さっきから顔色が真っ青です……」


心配そうな表情で見つめられた。
子供がパニックを起こした時と同じように、震える手を頬に伸ばしてきた。


「大丈夫。今日は独りではないから……」


歩み出しながら、(独りではない、独りではない…)と言い聞かせていた。

そうすることで、何とか足を前に踏み出した。



住んでいた場所と同じ町名が示されたプレートが目に入り、心音は更に加速した。

その角を曲がれば、確実に住んでいた家の跡地へと辿り着く。


あの夏の日、1年ぶりの帰省に踊っていた心は、一気に地獄へと突き落とされた。