『僕が一番最初に読んだ先生の作品は、確か幼馴染みの男女が主人公だったと思います。

お互いの存在が近過ぎて、話したいけれど話せずにいる自分たちの夢を通して起こる言葉の行き違いがテーマだったように記憶しています。

特に女の方が鈍感で、男の気持ちを分かってないと言うべきか、男の方も今一つ煮えきらなかった…と言うべきか。

少女漫画らしいと言えばそれまでだけど、そこに津軽先生の画風がうまい具合に組み合わさっていて、味のある作品に仕上がっていたと思います。



…あの漫画の中に描かれてある風景は、先生の故郷なのだそうです。

ススキ野原も田んぼの畦道も、全部が夢物語のような日々だった…と仰っていました。

漫画の一コマの中に、道端に置かれたお地蔵様のカットがあったのを覚えていますか?

あの風景も、実際に故郷の町にあるのだそうです。


先生はいつの日かあそこへ戻って、過去の自分に会ってみたいわ…と呟かれておりました。

故郷は先生にとって、「今も心の中に蘇る原風景」なのだそうです。

それが漫画の原動力にもなっているのよ…と、笑いながら話しておられました。』




「心に蘇る原風景…」



何故か胸が締め付けられるような思いがした。

読み始めは明るくて楽しい気がしていたのに、今はどこか苦しい。


過去に還りたい…と思っても、決して戻ることのできない自分。