「おじいちゃん、おじちゃん」と呼んでくれる存在がいなかったせいか、結構デレデレなところもあるんです。

私には厳しいことを言うくせに孫や甥には甘いなんて、不公平な話ですよね……。』


つまらなそうな顔をしている姿を思い浮かべて笑った。
行間が少しだけ空いた後の言葉に、軽く胸が疼いた。




『どんなに嫌味なことを言われても、私はやはり帰って良かった…と実感しています。

二度と足を向けることもないだろうと思っていた故郷は、10年前となんら変わりもなく日々の生活が流れている。


川の景色も山の風景も、津軽先生の漫画の中のような街並みも、全てが子供の頃のままです。

その中で暮らし続けていると高校時代に戻ったような錯覚に陥ることもあって、もしかするとこの町の何処かで誰かと再び恋に落ちれそうな気がしてしまいます。


もう一児の母なのに、そういった馬鹿な空想ばかりを思い描いてしまうのです。



小野寺さんは、ご自分の故郷へはお帰りにならないのですか?

あの美しい夕日を眺めに、一度お戻りになられたらいいのに。


1人が嫌ならいつでもご一緒しますよ。

今なら私も時間が沢山有り余っていますからーーー』



彼女の手紙を折り畳みながら故郷の海景色を思い出した。


惨事のあった後、裁判の為に何度か地元へと足を運んだ。


判決の下った日を最後に、故郷を去ろうと決めた。


殺人のあった実家の家屋は、亡くなった両親の遺産で取り壊した。