津軽先生に連絡を取ったのは、自宅に伺って4、5日が過ぎた頃だった。

前に発行していたセレクトブックが好評で、3冊目を出して欲しいという読者からの希望が出始めたからだ。


気落ちしながら電話をかけた。
いつもの様に電話をとった萌子さんは、俺の名を聞くなり声を上げた。


「小野寺さん⁉︎ クルミさんはその後どうしたの⁉︎ 」



「は……?」


いきなり大真面目な声で聞かれて驚いた。
大抵はおふざけから始まり、からかわれてから先生に代わるのが常なのに今日ばかりはやけに真剣そうだ。




「どうしたって………知りませんよ………」


あの日を最後に文通も途絶えた。
メールアドレスも変更しただろうと思い、敢えて送ったりもしていなかった。


「知らないってどういうこと!『お願いね!』って頼んだじゃない!」


「そ、そう言われましても……」


あの雪の日に別れを告げられたのはこっちだ。
なのに、どうしてここで責められる?

俺が何かしたのか?
フラれたのは俺だろう?



「…ごめんなさい。小野寺さん……」


声が変わり、津軽先生本人が電話口に出たことが分かった。


「姉はクルミさんのことが心配で仕方ないみたいなの。あの人が幸せになってくれたらいい…と心から願ってるみたいで…」

「幸せ…?十分幸せな筈でしょう?ご家族だっているんだから……」


結婚していることは先生たちも知っているだろうと思って言った。