「吸血奇術師の用意した、この平成奇術史というヒントは、ヒントでもあり、とある真実を上手く隠す手伝いもしていたという事です。

まさか、本当に気付かないといけない真実が、目の前に初めからあるなんて、誰も思わないでしょうから」

「もう、いつもいつも、もったいぶっちゃって!

何に気付いたのさあ!」

少しふくれ気味に礼士は、春子にそう言って、春子が発見したであろう真実とやらの正体を教えるようにせかした。

しかし、春子はそんな礼士に、手の平をすっと差し出して制止し言った。

「まあまあ、物事には、手順という物があります。

特に、今回起ころうとしている事件については、順序立てて説明していかなければ、少しややこしいと思いますし、実はまだ、第三の結末にたどり着いた訳ではなく、その一歩手前、マラソン大会で言えばまだ、ゴール前のテープを切る瞬間に過ぎないんです。

だから礼士先輩?ここは、はやる気持ちをぐっと抑えて頂いて、どうか私の話を静かに聞いてもらえませんか?

私だって、早くテープを切りたいんです」

そこまで言うならと、礼士はイスに腰掛け春子の話を聞く事にした。

「まだ、推理段階に過ぎませんが、今からいう事自体は、恐らく正しいと思います。

では、お聞き下さい。

多野たえ子さん、谷本亮さん、月山美加さん、この三人のやり取りから私が導き出した答えは、こういう事なんです。

谷本さんは、この学校に入学し、かるた部に入部した時はまだ、城田さんの復讐の事は考えていなかった。

それは、谷本さんが、君の方が、大会に出場するにはふさわしい、と言って月山さんに大会の出場権利を譲った事からも、元々は、自分自身が純粋に大会で頑張ろうと思っていたからだと考えられます。

所で、礼士先輩?月山さんの印象って、どう思います?

特に、かるたをやっている時の、彼女の印象は?」

「う〜ん、そうだなあ…

…動きは俊敏で、覇気と言うか迫力はあるけれど…

…そうだ!何か、すごいイキイキした表情というか、とても楽しそうだった。

見ているこちらまで、楽しくなりそうな…」

「…私も、そう思います。何か、彼女といると、こちらまで幸せな気持ちになっちゃうし、彼女の一生懸命な姿を見ていると、何か、こう、応援してあげたくなるような気になるんです。

だから、もしかしたら谷本さんが月山さんに大会の出場権利を譲った理由って、そこにあったんじゃあないでしょうか?

もっと言えば…