「…綾乃ちゃん。」
「なんですか。」
「大好き。」
「知ってるけど。」
「出会った頃も、告白した時も大好きだったけど、今はその時よりももっともっと大好きだからね。だから、最終的には結婚ってこともちゃんと考えてるし、そういうの全然重くないよ。俺は綾乃ちゃんよりも4歳下で、追い付かないことばっかりだけど、追い付けるように頑張るから。…だから、綾乃ちゃんにはそのままでいてほしい。たまに俺に怒ったり、泣いたり、でもいっぱい笑ってくれる綾乃ちゃんでいて。そんな綾乃ちゃんの傍にいさせて。」

 就職を決めたわけでもないのに、これはもう。

「…これはなに、プロポーズですか。」
「え、え、…あ、そうかもしれない…。」
「指輪は?」
「…ないです。」
「あー…もう、ほんっと…勢いだけじゃんか、健人は。」
「…ごめん。でも可愛い綾乃ちゃん見てたから我慢できなくて、…言っちゃった。」
「可愛かったりかっこよかったり…ほんっと何なのよ、あんたは。」
「…じゃあ、指輪の代わりに。」

 そっと左手がすくい上げられる。その薬指に落ちてきた、優しいキス。

「今日はこれしかないけど。」
「…おっまえ…これで許すとか思っちゃってるあたしもどうかしてるけど。」

 どうかしている。くらくら、ふらふら、思考が回らない。

「綾乃ちゃん。」
「はいはい、なんでしょう?」

 顔を上げた先に、触れるだけのキス。何度も重なっては離れ、気がつけば健人の腕の中に強く閉じ込められる。

「…まだするの?」
「してもいい?」
「ダメって言っても、こういう時の健人はやめないな。」
「俺のこと、よく知ってるね。」
「これでもかってくらい知ってるよ、健人のことなら。」

 これでもかってくらい、知っている。そして、こんなところまで、と思えるくらいには知られている。

「綾乃ちゃん。」
「なにってば。」
「今日も大好き!」

*fin*