「結婚する気、あるってよ?」
「…ほんと、余計なことしないでよ。健人にとっては今すごく大事な時期なんだから。」
「でも、聞きたいこと聞く手間省けたじゃない。」
「…ね、びっくりした。」
「え?もしかして予想外?」
「いや、その手の話をしたことがないわけじゃないよ。ただ、いよいよ明確になってきたというか、…なんかいきなり大人びちゃっててびっくりした。」
「ほーぅ、なるほど。大事に育てた年下男子がいきなりかっこよく見えちゃった?」
「…育ててないけど。まぁ、そうだね。健人はどっちかっていうと可愛い系だったのに、何か今の対応はかっこよかったよね。らしくない。」

 そのらしくなさに、らしくなく心拍数を上げている25歳ではあるのだけど。

「私がいたからでしょう?綾乃の同世代の友人がいて、緊張しながらも誠意で真っ直ぐに応えてくれる。応えようとした、かな。でも100点満点の答えじゃない。あー…いよいよ綾乃も幸せになるのかぁ。」
「早まらないでよ。それに、結婚がゴールで幸せじゃないでしょ。そもそもあたしは今も日々十分すぎるほど幸せですし?」
「はいはい。彼、料理の腕前もいいんだもんね。いいなぁ美味しいご飯。うちの旦那なんか家事全般くそったれよ、くそったれ。」
「でもそのくそったれがよくて結婚したんでしょ?」
「…くそったれがよかったわけでは決してないけどね。」

 女子トーク(もう女子と呼ぶにはおこがましい年齢に差し掛かってきた)はえげつない。これは鉄則である。

「それでも、幸せでしょう?」
「もちろん。一緒にいて負の感情しか湧きあがらない人となんて同じ家に住めないって。」

 それには深く、綾乃も同意した。そういう意味でも、健人は最高のパートナーなのかもしれない。

「それじゃあ帰りますか。」
「愛しい旦那様が待ってるじゃないですか。」
「あら、綾乃言うじゃない。」
「いやいやいや。あたしまだ結婚してないんで。」
「可愛い可愛い年下男子のお家で美味しいご飯でも食べてなさい。」
「それだけ聞くと、あたしがだめ女みたいだなぁー。」