酔っていた頭が急速に目覚めていく。自分は、今ようやく健人の顔を真っ直ぐに見つめたような気がする。健人は今にも泣きそうな顔をしていた。自分は能天気に笑っていたけれど、その言葉を健人はどんな気持ちで聞いていたのだろう。自分の方が4歳も年上なのに、全然そんな風には接することができない。うっかりすると見落としてしまう。

「…ごめん、今急速に目が覚めた。そんな顔させてるって今気付いた。」

 我ながら、情けない謝罪だ。
 健人の方に歩を進め、そっとその背中に手を回した。肩口に降りてきた頭に、健人の想いを知る。

「ごめんね、健人の気持ちなんて考えてなかった。就活忙しそうだったし、飲み会は別に業務だからさ。」
「…そうだけど、でも、あんな可愛い綾乃ちゃんがニコニコしてたらさ、誰だって勘違いするよ。」

 それこそ健人の盛大な勘違いだ。綾乃の職場の男は綾乃を女としてカウントしていない。それなのに、ここまで心配してくれるのは多分世界中を探したって健人くらいだ。
 健人がこんな風に心配してくれるから、綾乃は日々を楽しく過ごせている。甘えているのはいつだって自分の方だ。

「…ごめん、考えなしだった。素直に甘えればよかったね。」
「俺、やっぱり綾乃ちゃんの役には立てないのかなって真剣に思ったから。」
「十分すぎるほど役に立ってますから。そこは自信もってよ。」
「…無理。だって綾乃ちゃん、無敵なんだもん。」
「その綾乃ちゃんが無敵なのは、健人がいるからだけど?」

 健人がいつも穏やかに迎えてくれるから、いつだって好きだと言ってくれるから、職場で無理をしても、元気がなくても明るくいられる。そのことには気付いてほしい。恥ずかしいから、自分がどれだけ健人のことを好きかはまだ気付かなくていい。

「…そうだね。俺が笑っていられるのは綾乃ちゃんがいるからだ。」
「そうそう。あたしたち、二人でようやく一人前だから。」
「…そっか。」

 健人の腕が綾乃の背に回った。少しは自信を取り戻してくれたようだ。

「綾乃ちゃん。」
「はい?」

 顔を上げると、優しいキスが降ってきた。

「…へへ、大好き。」