* * *

「綾乃ちゃん。」
「ん?」

 とてつもなく暗い気持ちを彼女に対してもってしまっていることに、申し訳なさがないわけじゃない。どんなに自分は心が狭くて、弱くて、不安なのか、これをぶつけていいのかも正直に言えば迷っている。それでも言わないではいられない。

「…ごめんね、心が狭くて。」
「何の話?どったのー?そんな暗い顔しちゃって。」

 暗い顔をしたかったわけじゃない。それなのに、綾乃が絡むと普通ではいられない。流せたことが流せなくて、余計に苦しくなるのは自分なのに。

「…やっぱり駅まで迎えに行けばよかったって思って。」
「えーだって寒いじゃん。健人就活生だし、無茶させられないよ。」

どす黒い感情が渦を巻いた。こんな気持ちを綾乃に知られるわけにはいかない。だからこそ、適切な言葉でちゃんと伝えたい。

「変な男…あぁ、彼は新入社員でね、家も近くて…。」
「家が近いならなおさらだよ。今後も送るよって言ってくる可能性大アリじゃん。俺のことも、全然見えてない風だったし。」
「そんなこと…言ってたねぇー…。」

 綾乃にはある余裕が、自分にはない。いつでも綾乃の一番でありたくて必死だ。

「俺が不安だから、綾乃ちゃんの隣にいさせてよ。本当に無理なとき以外は、迎えに行くよ。行きたい。どうしても。」

 そんなに自分は頼りないのかな。それとも、自分の彼氏がこんな男だって知られるのが嫌?
 情けない考えばかりが浮かんでは消えてくれなくて、まとわりつく。