「実はね、綾乃ちゃんにまだ言っていないことがあります。」
「…なんだそれ。浮気か。」
「違うよ!昨日なんだけど、帰りに大学の駅から電車乗ろうとしたら呼び止められて…。」
「告白された?」
「あ、近い!チョコ渡されそうになった。」
「…え、受け取ってないの?」
「うん。」

 さらりと真顔でそんなことを言う健人。

「だってさ、顔が真っ赤でいかにも本命って感じでさ。受け取れないよね。そのチョコに罪はないけど、そのチョコは普通のチョコじゃないんだ。綾乃ちゃんが一番大事で、その子の気持ち受け取れないし、何も返せないなって思うと、冷たい対応しかできなかった。ね?優しくないでしょ?」

 綾乃は首を横に振った。

「どっこが。それ、一見冷たそうで本当は優しいやつじゃん。」
「え?」
「…相手のことをそこまで考えて断るって、あたしは優しいと思うけど。むしろホイホイ貰って適当にその子の気持ち受け取る方がよっぽど残酷だと思うね。元々その子に気持ちを返すつもりはないわけでしょ?」
「…そっか。そういう考え方もあるね。俺は、優しくしたい人にしか優しくしない人間は冷たいって思ってたけど。」
「あー…どちらかと言うと、それに当てはまるのはあたしじゃない?やっぱり健人は全体的に優しさ成分多めだと思うよ。」
「優しさ成分って何?」
「健人の半分を作ってるもの。」
「水より多い!!!」

 その優しさ成分のほとんどを自分ばかりがもらってしまっていることにも、綾乃はちゃんと気付いている。だからこそ、バレンタインにはその想いを返したい。

「…でも結局、ガトーショコラは健人がほとんど作っちゃったんだよなぁー…。」
「あ、じゃあお願い聞いてもらってもいい?」
「レベルによりますが、善処しましょう。」
「あーんして?」
「はいでたー。残りの半分を占める甘えんぼ。」
「え、待って。綾乃ちゃん!俺の半分は優しさで半分は甘えんぼ?え、そんなに?そんなに甘えてる?」
「今日の成分比はそんな感じ。」
「え…えぇ…じゃあちょっと我慢しようかな…でもなぁ、綾乃ちゃんお休みだし…。」

 一人でちょっとだけへこんで考え込む姿も悪くない。だけど、それじゃ本末転倒だ。

「いいよ。あーんくらいならお安い御用。結局あーんするあたしより、健人が照れるだけだもん。」
「…いえてる。でもしてもらいたい!」
「はいはい。してあげますよ。」