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「…はぁー…なんとも言えない映画だった…。」
「ハッピーエンドだと思ったんだけどなぁ…予告のときは。」

 基本的に綾乃も健人もハッピーエンドが好きだ。それなのに、今日観た映画はすれ違ったまま終わってしまった。女の方には新しい好きな人ができ、男は取り残されたままだった。

「…自分に置き換えたらどうしようもなく辛かった。」
「その発想はなかったなぁ、あたし。」

 健人の表情は暗い。

「綾乃ちゃん。」

 するりと握られた手をそっと握り返す。

「綾乃ちゃんとすれ違ってないよね、俺。」
「今、まさに手を繋いでますけど。どうすれ違えと?」
「そうじゃなくて!こう、俺に内緒にしてることとか、何ていうか…心が!心のすれ違い!」
「どんだけ映画に影響されてんのよ…。」

 確かに、女の方が男に少しずつ何も言わなくなっていく話だった。我慢して、我慢しきれなくなって、少しずつ離れていく。言葉足らずな二人の、すれ違いが切なくて辛い。

「あのね、映画のヒーローと健人じゃ全然タイプが違うでしょ。ヒーローくんはなんていうか、もう一直線で一つのことしか見えてなかったでしょ?でも健人は普通にあたしの異変に気付くじゃん。ちょっとだるいなーとかその程度でも綾乃ちゃん大丈夫ってすぐ言うでしょ?」
「うーん…そうかな。気付けてる?ちゃんと。」
「無自覚でしょうが、気付けてますよ。だからすれ違いようがないの。」
「…そっか。」

 少しずつ頬が緩んで、辛そうな表情が消えていく。普通の手の繋ぎ方から指を絡める繋ぎ方に変えたのは、気持ちに変化があったからだろう。

「早く家に帰ろう。」
「はい?」
「だって今、猛烈に綾乃ちゃんをぎゅーってしたくなったんだけどここ外だし…だから我慢できなくなる前に早く帰ろう。」
「…もう辛くなくなったのね?」
「綾乃ちゃんと一緒に観て正解だった。俺一人で観てたら多分辛すぎて泣いてたかも。」
「はいはい、可愛い可愛い。健人くん可愛い。」