「えいっ!」
「んぐ。」

 一瞬でスプーンを手に取り、健人が綾乃の口の中に生クリームを突っ込んだ。ほんのりとした甘さが口の中に広がって気が緩む。

「健人あんた…誤魔化そうったってそうは…。」
「ごめんね、綾乃ちゃん。でもね、ほんとに可愛いところは言ってないよ。みんなに話しても大丈夫なとこだけ。俺だけが知ってたいところは言ってない。」

 少しだけ真面目な顔。落ちた声のトーン。こういうところは絶対に健人がずるい。

「楽しいデートなのに、楽しくない気持ちにさせちゃったよね?ごめんね。」
「…楽しくないとは言ってない。」
「じゃあ、楽しい?」
「健人と一緒にいて、楽しくない方が無理でしょ?」
「うん。」

 もう、どうでもよくなってきた。いや、本当はどうでもよくはないけれど、問いただしたところで恥ずかしくなるのは多分綾乃の方だ。
 驚いたり、少しだけ落ち込んだり、今日はやたらと感情が忙しい。それでも、目の前にこの男がいてくれる限り、楽しく一日は終わってくれる。まだ終わらないけれど。

「…もういいです。とりあえずこれ以上変なことは友人たちに言わないように。」
「わ、わかりました!」
「今日のデートのことも、何聞かれても答えちゃダメだから。」
「わかってます!」
「秘密。できる?」
「…その秘密って言葉、何か綾乃ちゃんから聞くとドキッとする。もう一回!」
「バカ。なんでドキッとすんのよ。意味わかんない。」
「だって今日のことは二人の秘密ってことでしょ?…楽しいなーそういうの。」
「…ほんっと…大丈夫かなこの人。」


― ― ― ― ― 

「なぁなぁ、健人の彼女ってどんな人なん?」
「んー…可愛い人。」
「なにそれ、見た目が?」
「見た目もだけど、中身が。いつも一生懸命で、無理とかできないとかそういうこと言わないんだよね。いっつも背伸びしてて、そういうの見ると可愛いなーって。」
「のろけかよー。」
「あとは、楽しい人だよ。俺がどんなに落ち込んでても、その日のうちに綾乃さんに会えればもう気持ちが楽しくなる。…そういう人。」