「…綾乃ちゃん。」
「何でしょう?」
「お、怒ってる?」
「怒ってないけど、何話してんのかなーとは思ってる。」
「怒ってるじゃん!」
「だから怒ってないってば。…というか、大学生が眩しくて眩暈した。」
「眩暈?」

 健人には健人の世界が広がっている。それは当たり前のことだ。それと同じように綾乃には綾乃の世界がある。ただ、こうして健人の友人に会うのは初めてで、それはつまり年の差をまざまざと感じたのもこれが初めてだった。

「…楽しい?」
「質問に質問返し?」
「健人だってそうじゃん。」
「んーじゃあ先に答えるけど、楽しいよ。だって綾乃ちゃんとのデートだもん。ちょーっと邪魔は入ったけど、美味しい匂いもするし、映画も観たかったやつだし、楽しいよ。まだまだ楽しいことは続くし。」
「…そ、れならいいんだけど。」
「それで、綾乃ちゃんの眩暈の方は?」

 健人が綾乃の手を少しだけ強く握る。情けないことに、それに勇気づけられて綾乃が口を開く。

「若いなぁって。ごめん、一瞬怯んだ。」
「どうして綾乃ちゃんが謝るの?むしろこの場合俺でしょ、謝るの。綾乃ちゃんのこと、綾乃ちゃんに無断で自慢してたんだから。」
「は…はぁ!?」
「ま、待って!怒る前に注文しちゃお。綾乃ちゃんはショートケーキ?ストロベリーパフェ?どっち!?」
「…誤魔化そうとしてるってわかってるけど、後ろが詰まってきそうだから注文する。パフェの方で。」
「わ、わかった!」

 ストロベリーパフェとショートケーキ、ラスクにカフェオレを二つ注文し、席に着く。さすがにパフェにココアじゃ甘すぎる。

「で、話を本題に戻そうかな?」
「…ご、ごめんなさい。綾乃ちゃんに無断で綾乃ちゃんのことを自慢してました。」
「…それ、意味わかんないんだけど。」
「…綾乃ちゃんのこと、大学に連れてくるわけにいかないでしょ?かといって、二人で撮った写真も見せたくなくて…それで。」
「いや、辻褄合ってないからね?ていうか、一体何言ったの?」
「…綾乃ちゃんがどれだけ可愛いか。」
「は、はぁ!?あんたバカじゃないの!?」
「だって…言えば言うほどお前みたいなやつが付き合えるような人じゃねーとか言われるから…!」
「いやいやいや。益々意味わかんないからね健人!」