「今日、デート行けるのも嬉しいし、そんな日はホットケーキで起こしたいって思ってたのも叶ったし、綾乃ちゃんが美味しそうにホットケーキ食べるとこも見れちゃったしで、嬉しいなぁって。」
「…そんなんでいいの。」
「そんなのがいいんだよ。綾乃ちゃん、仕事で疲れてたでしょ?だからデートは諦めてたんだけど、でも昨日行くって言ってくれたじゃん?それがどれだけ嬉しかったか…。」

 健人は目を細めて穏やかな表情を浮かべながら、ホットケーキを一口頬張った。

「…安上がりだなぁ、健人は。」

 そんなことをいつも思う。そして、目の前の男を見て、自分も安上がりだと知る。

「…でも、嬉しいってのわかるかもしれない。」
「え?」
「健人が美味しそうに私の料理食べてくれるとき、確かに嬉しい。」
「でしょ?そんな嬉しいがいっぱいあるのが、綾乃ちゃんとの暮らしなんだよね。」

 朝から糖度が高い。でも、こんなにニコニコしている健人の気持ちに水を差すのは何か違う気がする。

「今日は映画だよね。綾乃ちゃんにしては珍しく恋愛モノが観たいって…。どうしたの?」
「んー…だって、バンバン撃つようなやつしか今やってないんだもん。でも、そういうの苦手だし…。健人は恋愛モノが好きじゃん。」
「そうだけど。」
「いつも付き合わせてばっかりだから。家のことも全然やれてないし。デートくらいは健人の好きなようにしようっていう私の心意気。」
「…ありがとう、綾乃ちゃん。もっと嬉しい。」

 嬉しい気持ちは、何となく伝染する。笑顔に笑顔を返すみたいに。
 そんなことを思いながら、綾乃はもう一度ゆっくりホットケーキを口にする。

「はぁー…今日の幸福指数高すぎてどうしよう…。」
「どうしようもなにも、ありがたく全部喜んでおくのが健人でしょ。」
「それもそうだね。」

 ホットケーキの甘さが、より嬉しさを増していく。

「ごちそうさま。美味しかった。」
「綾乃ちゃん。」
「ん?」

 健人の指が綾乃の口元をつついた。そして、その指をペロリと舐めた。

「…ごちそうさま。最後に美味しいところもらっちゃった。」
「…はぁー…ついてたわけね。不覚。」