「わー…綾乃ちゃんもぎゅってしてくれるの、嬉しい。」
「好きなだけどうぞって言ったし。」
「…ありがとう。俺はいつも甘えてばっかりだ。」

 声のトーンが下がる。らしくないけど、今の健人なららしいのかもしれない。

「そこはお互い様だから。気にしなくていいよ、少なくとも今日は。」
「…じゃあ、やっぱり甘えちゃうね。」
「うん、どーぞ。」

 綾乃を抱きしめる腕が強くなった。それに応じて綾乃も抱きしめ返す腕に力を込めた。

「…綾乃ちゃん。」
「なーに?」
「…さっきさ、パパとかママとかの話をしたじゃん?」
「うん。」
「あれ、いいなぁって。わかってるんだよ、まだ結婚できるような立場にないこと。でも、今俺に家族はないから。だから家族が欲しいなって。それで…。」
「…うん。」
「俺が新しく家族を作るなら、最初の家族は綾乃ちゃんがやっぱりいいなって。」

 プロポーズはまだしないと言ったくせに、これは充分にプロポーズと呼べる代物なのではないだろうか。

「…そんな重大な役にあたしなんかを選んでいただき、誠に光栄です。」
「あーなんで他人行儀なの!俺と綾乃ちゃんのことだよ?」
「そうだね。だから光栄だなって。」
「え?」

 きょとんとした表情を浮かべると、年の差が広がってしまいそうだからやめてもらいたい。年を気にしているのは健人だけじゃない。

「あたしは…失ったことがないからわからないけど、でも、どんなことでも新しく踏み出すのってエネルギーがすごくいるでしょう?その相手にあたしを選んでくれたことは素直に嬉しいなって思うよ。」

 綾乃は首を伸ばして、唇を重ねた。突然のことに一度大きく見開かれた健人の瞳は、少しずつ緩んでいく。

「せいぜい愛想を尽かされないように頑張ります。」
「綾乃ちゃんに愛想を尽かしたりしないよ!むしろこんなガキ…って言われる方が早い気がしてるんだけど…。」
「案外ガキじゃないもん、健人は。」

 むしろ綾乃の方が子供っぽいところがたくさんあるような気がしてならない。好きなことには一直線で、がむしゃらで。子供のもつ子供らしさを凝縮したら自分になってしまう様な気さえする。

「ねぇねぇ、綾乃ちゃん。」
「はいはい、なぁに?」
「…今日も大好き。」
「はいはい、知ってますよ。」

 同じくらい、大好きだ。